最も古い記憶の話

3歳くらいまでの幼児には、母親のお腹の中にいた頃の記憶があるのだという。

友人の子どもは「ママのお腹の中暗かった」「頑張って出ようとしたけどなかなか出れなかった」と結構詳細に胎内の様子を語っていたらしい。

 

2歳3か月の息子に「ママのお腹の中にいた時のこと覚えてる?」と聞いてみると「うん!」と勢いよく答えるではないか。

嬉しくなって「どんなだった?」とくい気味に尋ねると

「え~とね~、息子くんのぽんぽんはぱいーんで、ママのおへそがぷっぷくぷー」と自分が着ている服のすそをまくりあげてお腹を丸出しにし、ぽんぽん叩いて爆笑している。挙句「ぽんぽんマンだじょ~!!」と腹を出したままこちらに突進してきた。

 

息子よ、君が何も覚えていないということと、お調子者だということはよく分かった。

 

私も胎内にいた頃の記憶を、鮮明に覚えていた時期があったのだろうか。

自分の一番古い記憶はなんだろうとたどると、思い出すのはおそらく2歳になったころくらい、通っていた保育園の風景だ。

当時通っていた保育園の園庭の隅にプールがあり、そのプールを囲む塀と、園庭全体を取り囲む塀の間に、人が一人通れるくらいの狭い通路があった。

その通路の中ほどに立ってみた景色を、古い映像を見ている様に鮮明に覚えている。

両側が塀になっているためか、あまり光も入らず、雨が降ったあとなのか、水たまりが残っている。コンクリートの塀を割って、雑草が生えている。

私はその通路の中ほどに立って、塀に差し込む日の光をみていた。

 

その保育園には1年くらい通っていたそうなのだけど、その場所のこと以外は覚えていない。

先生のことも、お遊戯のことも、歌も給食もほとんど覚えていない。

けれど薄暗いその通路を思い出すと、怖いというよりはほっとする。もしかしたら、先生やお遊戯からはなれて、あの場所に逃げ込むような気持ちだったのかもなぁ。

 

息子の一番古い記憶は何になるんだろう。

覚えていようがいまいが、君はかつてぽんぽんマンだったのだ、という話はいつかしなければならない。